代表取締役 大橋 康弘
タクシー業界の最大手であり、業界変革の旗手である日本交通グループ。同グループのなかで、「ドライバーがいちばん稼げる会社」という評価をかちとっているのが、東京・足立区に本社を置く日交美輝だ。代表の大橋康弘は、より稼げる時間帯にシフトさせる勤務時間の変更、車内カメラの設置による接客力の強化といった施策で、同社のドライバーの「稼ぐチカラ」を引き上げてきた。「究極の目標は、タクシードライバーという職業の社会的地位を向上させること」という大橋に、理想像を語ってもらった。
日本一、ワークライフバランスがとれる会社
ひとことでいうと、「日本一、ワークライフバランスがとれるタクシー会社」。私はそう思っています。その理由は、「稼げて」「休めて」「やりがいが感じられる」からです。仕事をする人間にとって、この3拍子がそろった環境というのは、究極の理想像でしょう。タクシー会社のなかで、いちばんこの3拍子がそろっているのが日交美輝。そう自負しています。
順番に説明していきましょう。まず、「稼げる」理由です。大きかったのは業界に先駆けて、15時半に出庫する「遅番勤務」を導入したこと。従来は、昼に出庫して翌朝の7時に帰庫していた。それを3時間ほどあとにズラしたんです。会社に戻ってくるのは翌朝の10時。これにより、ドライバーの売上が1日あたり1万円ほどアップしました。1日のなかで、タクシーにとってのいちばんの“稼ぎどき”である「終電後の時間」と「朝の通勤時間」が、両方めぐってくるからです。
いまでこそほかのタクシー会社も同じことをやっていますが、私が代表になった2010年に、日交美輝がはじめて導入したものなんです。日本交通グループのなかでも、初の試みでした。ほかのどの会社よりも、この勤務時間帯のなかで稼ぐノウハウをたくわえている。だから、ドライバーが「稼げる」会社なんです。
日曜日を休日と定めていることで、ホワイトカラー職種と同じ生活リズムを実現していることです。これができるのも、遅番勤務によって、ドライバーひとりあたりの売上がアップしたからこそ。ムリに出勤してもらわなくても、会社としての売上が確保できるんです。ですから、日交美輝では、できるだけ多く休んでもらうことに配慮しながら、ドライバーのシフトを調整しています。「休みありき」で会社を回しているから、ドライバーは家族との時間や趣味に没頭する時間の充実がはかれるんです。
「自分はタクシードライバー」と胸張っていえる
それは、日本交通ブランドを背負っていることが大きい。業界最大手であり、社会的な知名度や信用があります。家族や友人に対して、「自分は日本交通でタクシードライバーをやっているんだ」と、胸を張っていえます。そして、ドライバーのみなさんが、そう胸を張っていえるようにすることこそ、私が2010年に日交美輝の社長に就任してからずっと、めざしてきたことなんです。
私自身の経験があるからです。1989年のこと。当時24歳の私は、日本交通に入社し、それから4年ほどタクシードライバーとしてハンドルを握りました。じつは、私の父がタクシードライバー。だから私にとって、この仕事は「オヤジの仕事」として、あこがれだったんですよ。小学校の卒業文集の「将来の夢」について「タクシードライバー」って書いたくらい。
ところが、実際に就いてみたら、「運ちゃん」呼ばわり。「運ちゃん、そこを右だ」なんて。「オレのオヤジの仕事、こんなにバカにされているのか」って。あれは、くやしかったな。
その後6年間、営業所の運行管理者として勤務。1999年、本社に異動しました。当時、ドライバーあがりの本社職員は、私ひとり。「現場を知っている」「ドライバーの感覚がわかる」存在として、上層部に重宝されました。「大橋君、この案は現場に受け入れられるか、どう思う?」と、意見を求められることも。だから、「自分なら、タクシー業界やドライバーという職種のイメージを変えることが、できるかもしれない」と思ったんです。
毎日、4時間かけてドライバーの仕事ぶりをチェック
すべてのタクシーに、勤務時間中の社内を映すドライブレコーダーを搭載。ドライバーたちの見えなかった言動を可視化しました。毎日、全員分のドライブレコーダーを見て、その仕事ぶりをチェックしています。昔は40台ぶん、すべてを私自身がチェックしていました。全部見るのに4時間かかります。いまは83台になり、さすがにスタッフにまかせることが多くなりましたが、ドライバーの言動になにか問題があれば、私自身が直接、本人に声をかけて改善をうながすことは続けています。
はい。少しでもモチベーションが低下したドライバーに対して、すぐに軌道修正してもらうためです。最初はできていたことができなくなったということは、どこかに気のゆるみが生じたから。「いまなら間にあうから、もとに戻そう」と。タクシードライバーというのは、ある程度、仕事に慣れてくると、我流で業務を処理するようになる。誰にも監視されない自由な状況下にあるから。その結果、サービスの質の低下が起きても、誰も気づかない。そこを引き締めるのが、私の役目です。
それではもうひとつ。ドライバーたちがタクシーを洗車するタイミングを変更しました。従来は、帰庫後に行っていた洗車を、出庫前に変更したんです。帰庫後だと、「次にそのクルマで出庫するドライバーのための洗車」になります。でも、出庫前ならば「自分のため」になります。気合いの入り方が違うんです(笑)。太陽の光を浴びながら、仲間内で世間話しつつ洗車をして、すっきりしたアタマとカラダ、そしてクルマで出庫していくほうが、やる気になりますよ。
接客ナンバーワンのタクシー会社を目指す
「日本一、普通に接客ができるタクシー会社」をめざします。全国のタクシー会社のよいお手本になれるくらいに。そんなに難しいことじゃない。しっかりドライバーを経営者自身が目で見て、評価してあげればいいんだから。
そうやってタクシー会社のイメージを変えていくことで、タクシードライバーのことを、「運ちゃん」と呼ばなくなる時代をつくり出したい。私たちは、「運転士」なんです。ドライバー全員が、その誇りをもつ時代を切り拓いていきたいです。
2020年、コロナ禍によって政府は全国的に緊急事態宣言を発令。あらゆる業種に休業要請が出ました。しかし、タクシー業は含まれなかった。むしろ、「動かせ」と国から命じられたんです。電車やバスでは届かない、自宅の前までの最後のワンマイル。それを担うことができるのは、私たちだけ。お子さま、妊娠されている方、ご年配の方、お身体が不自由な方――。あらゆる人を、ドア・ツー・ドアで送ることができる。それはいまも、そしてこれからも、替えのきかない誇り高い仕事なんです。
お客さまをただ待つだけになりがちな、ほかのサービス業とは違い、タクシー業は自らお客さまを探しに行けるという強みもある。不況に強い業種です。そのなかで、私たちは東京23区と三鷹市・武蔵野市を営業エリアとしている。そこには、1日5億円ものマーケットが存在します。一緒に、この業界を盛り上げていきましょう。
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