■代表取締役社長 佐竹 信敬
ITの聖地である東京・秋葉原から歩いて約10分。昔ながらの手工業や卸売業がひしめく神田末広町がある。ここに本社があるサタケは、創業から68年を数える長寿企業。壁紙やカーテンなど内装材の卸売会社として、昭和、平成、令和の激動を乗り越え、現在も企業成長を続けている。今回は創業者の志を受け継ぎ、2代目社長としてサタケを牽引してきた代表取締役の佐竹信敬を取材。長寿経営の秘訣について、語ってもらった。
生活の洋風化にいち早く対応した
「時代の変化に素早く対応してきたこと」「できる範囲でコツコツやってきたこと」。この2つが長く続けられた理由だと思っています。私の父親がサタケを創業した当時は、東京・上野で“紙屋”を営んでいました。和風の住宅向けに、ふすまや障子を張る経師屋さんへ、材料の紙を卸していました。しかし、直ぐに時代の大きな変化が訪れます。生活の洋風化が進み、ふすまや障子の需要が少なくなっていったのです。サタケはそれに対応して取扱品目を、洋間で使う壁紙やカーテンにシフトしていきました。
はい。ふすまや障子の材料は手作りの和紙。供給量に限界があります。当然、それを扱っている私達にも売上の限界がある訳です。一方、壁紙は大量生産品ですから、供給量が多く、売上を伸ばしていくことができる。また、早い段階から壁紙に切り替えたことで、施工方法や施工道具を自ら開発。施工会社さんにそれを伝授することで、「洋間の内装についての信頼できるパートナー」として、施工会社さんからの信頼を獲得することもできたのです。
また、営業エリアを開拓する努力もしました。東京エリアは競合他社が深く食い込んでいて、サタケが参入できる余地が少ない。そこで千葉や埼玉、茨城などに出店。東京へ通勤できる郊外に、洋風住宅がどんどん建設されていくことに着目。そのニーズを取り込む戦略でした。
営業車にカーエアコンを導入
業界の中では「考えが新しい」とか「若い人のことを考えた取り組みをしている」とか、経営姿勢が評価された結果ではないでしょうか。いまだに、徒弟制度のような古い働き方が残っている会社も少なくない業界。それでは今の若い人たちは辞めてしまいますよね。「組織としてきちんと若手を育てる」という取り組みを始めたのは、業界の中ではサタケが最初のほうだったと思います。
例えば、営業職の服装。それまでは作業着だったのを、スーツとネクタイに変更。「会社を代表してお客様に会うのだから、ビジネスパーソンとして恥ずかしくない姿で行くべき」という考えからです。今はノーネクタイにするなど、よりカジュアルにするのがトレンドですが、当時、建設系の業界でスーツ姿の営業職は画期的でした。それから、「汗を垂らしながら営業するのは相手に失礼だから、営業車にエアコンを搭載する」。今でこそ当たり前のことですが、サタケは業界に先駆けて導入しましたね。
社員の自発的な行動を10年でも待ちます
「経営者が辛抱する」ということです。例に挙げた、「和室のふすまや障子から、洋間の壁紙にシフトする」という経営方針についても、辛抱強く社員を説得し、社員の行動が変わるのを待ちました。最前線の社員が本気で取り組んでくれなければ、どのような変革も成功しませんから。
これは長年、経営に携わる中で得た経験値ですが、「10年一生懸命にやっていると、10年後の1日目から全てが変わる」。例えば、「埼玉や千葉、茨城を営業エリアとして開拓する」という新方針についても、10年くらいの間は、これに沿って動いてくれた社員は数名。でも、地道にコツコツと、誠実に、ブレずに方針を掲げ続け、説得し続けていると、10年目に入った1日目に変わる。皆が「郊外を開拓しましょう」と、自分のアイディアみたいに言っている(笑)。
でも、そうやって社員が自発的に取り組むからこそ、経営方針の着実な実行に繋がる。トップダウンで「これをやろう!」と無理押しするのでもなく、「社員が動いてくれないから諦めよう」でもなく、辛抱強く、10年間、社員の自発的な変化を待つ。この経営姿勢が、長寿に繋がったのかもしれませんね。
サタケのDNAは「優しさ」です
歴史書を沢山、読んできたことでしょうか。歴史をいろいろ勉強していくと、無理をして、性急にことを運ぼうとした人は、必ずと言って良い程、破滅しています。辛抱強く、周囲の人の変化を待ち続けた人が成功しているのです。また、歴史の中で生き延びてきた人たちは、必ず何かを変えることで生き延びています。変わっていくことは歴史の中では必然だと思います。
時代の変化に対応して、自分自身も変わる。でも、周囲が思うように変わらないからといって、焦らない。社員も含めて、周囲が自発的に変化してくれるまで、じっと待つ。私の会社経営は、そういうスタイルだったと思いますね。
「優しさ」でしょう。経営者は優しい人でなければダメ。「社員の話に耳を傾ける」「取引先やお客様の声に耳を傾ける」。「きちんと話を聞く耳を持つ」という優しさは、経営者に不可欠な資質だと思っています。
お客様を大事にして、仕入先を大事にして、社員を大事にする。サタケは、そのような経営を60年以上、続けてきました。これからも変わりなく、その姿勢を続けていきます。一方で、そうした根幹となる部分以外は、柔軟に変化していく会社でもあります。今、時代の最先端に通じているのは、若い皆さんです。皆さんがサタケに入って、変えるべきところはどんどん変えていって欲しいと思っています。是非、サタケのこれからの70年を、担っていって欲しいですね。
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