ベイラインエクスプレス株式会社
石川 貴之
ピンク色が目立つ車体の高速バス、WILLER EXPRESS。東京から、出雲大社のある島根へ、あるいは伊勢神宮のある三重へと、お客を乗せて運行している。そんなWILLER EXPRESS を、20車両で6路線26便、毎日運行しているのがベイラインエクスプレス(神奈川県川崎市)だ。事故なく、安全な運行をして「あたりまえ」とされるバスの運転。それをつねに実現し、かつ、お客への笑顔を向けることを忘れない。同社内で「エースドライバー」と目されているのが石川氏だ。一流と呼ばれる彼は、今日も車両を点検し、バスを運転し、お客さまに笑顔を向けている。
取材は、夜行バスの運転を終えて帰社した朝方に行われたが、疲れた表情もなく、
笑顔で受け答え。健康優良であることがひとめでわかる
「いつ動き出したの?」って思いましたよ。出だしから、ぜんぜん違うのです。なめらかに、すっとスタートする。当時の私が運転していたとしたら、エンジンの振動でバスがふるえて、ガタンと動き出して──。当然、乗客のみなさんには、バスが出発したことがはっきりとわかるでしょう。路線バスの運転手として、それなりに経験を積んで、自信が出てきたころのこと。でも、「私はいったい、いままでなにをしてきたんだろう?」。そう思うくらい、先輩運転士の運転は別次元のものだったんです。
そこで、「指導をお願いします」と、その先輩運転士に頼みこみ、それ以来、師とあおいでいます。運転がうまいだけではなく、その人はなにがあっても落ち着いているのです。態度や身振り、言動が、お客さまに安心感を与えるんですね。
先輩運転士は、どのようにしてその高みにまで達したのか。それには2種類の努力があると学びました。ひとつは、基本にひたすら忠実なこと。私は、「一流運転士の定義はなにか。ひとつだけあげよ」と聞かれたら、「基本に忠実なこと」と答えます。研修で習ったこと、先輩から教わったことを、毎回きちんと実行する。慣れてきたからといって、「これでいいや」と自己流にしない。基本を繰り返していると、ムダのない自然な動きができるようになるのです。それは運転に限らず、車両の点検でも、お客さまへの対応でも同じ。自然な動きが、安全を確保し、お客さまに信頼感を与えることにつながるのです。
もうひとつ大切なことは、なにごとにも全力で取り組む姿勢です。全力か、少し手を抜いているかは、見ていればだれにでもわかってしまいます。全力で取り組む人は、仲間からもお客さまからも信頼されます。師とあおいだ先輩運転士も、手を抜くことをいっさいしない人でした。
基本の動作を徹底的に繰り返し、手を抜かない。それは運転時だけでなく、車両の点検でも同じだ
手帳に書いた座右の銘「辛抱継続」。おりにふれて取り出し、自らにいいきかせているという
深夜、高速道路を運行するとき。等速運転といって、ずっと同じスピードで走ります。でも実際には、交通状況などによって、少し加減速しながら運転しているのです。しかし、お客さまのなかには敏感な方もいて、わずかな加速や減速を感じとり、目をさましてしまう。そうならないよう、お客さまには体感できないぐらいの、ほんの少しの加減速になるように、アクセル操作を調整しています。ほんの数分の1ミリ程度、動かして調整する。つま先を少し上げた状態で、足の裏全体に神経を集中して、変化を感じとって調整しています。このやり方がベストかどうかはわかりませんが、試行錯誤しながら編み出した運転技術です。いつかは、100分の1ミリ単位で操作できる、そんな境地にまでいきたいですね。
理想としては、変ないい方かもしれませんが「あれ? 今日はバスに乗っていたのだっけ」とお客さまに思っていただける、そんな運転をしたいですね。たとえば、自分の部屋のなかで本を読んだり、スマホを見たり。テレビで旅行番組をやっていて、画面のなかで車窓の景色が動いていくのを眺めて楽しんでいる──。そんな感じでいて、気がついたら目的地についている、というような。「そうか、バスに乗っていたんだ。自分の部屋のテレビではなく、バスの窓から流れていく景色を見ていたんだな」と。まるで、自宅がそのまま移動してしまったかのような、乗っていたことを感じないリラックスした時間を提供できる運転士になりたいんです。
数分の1ミリ単位でアクセルを操作し、眠っている乗客をめざめさせない運転を心がけている
「いまでも車内アナウンスのときは緊張するんですよ」と笑う。その初心をもちつづけるのが一流の秘けつかもしれない
学生のときに引っ越しのアルバイトをしました。そのとき、軽自動車からはじまって、だんだんと2トン車、4トン車と大きな車を運転するようになっていき、大型車の魅力にハマりました。そこで卒業後、地元の路線バスの会社に就職。はじめてお客さまを乗せて走ったとき、緊張でガチガチになり、車内アナウンスで声がかすれたのを、ありありと思いだします。その会社で、師匠と出会い、運転士の道をきわめようと思いました。
その後、路線バスから貸切バスの運転に移り、さらにトレーラーの運転へと仕事を変えました。仕事は充実していましたが、ベイラインエクスプレスに勤務している運転士の友人から、いろいろ話を聞く機会があって。「ベイラインエクスプレスに転職して、もういちどバスを運転してみたい」と思うようになりました。運転士が健康でいられて、安全に運転できるようにするためのバックアップ体制ができている。ムリな勤務体制がなく休みはしっかりとれる。「そんなバス会社があるのか」と驚きました。
でも、「転職したい」ということを妻に話したところ、反対されました。トレーラーの仕事なら、毎日、帰宅できる。しかし、夜行バスとなると、2日に1回の帰宅です。「家族と過ごす時間が少なくなる」ということを心配したんでしょうね。でも、私はいい出したら引けない性格。この会社で働きたい理由を一生懸命話して、理解してもらいました。
高速路線バスの運転は、勤務と勤務の間を8時間あけることと、法令によって決まっています。当社はさらにその間隔を長くとってくれているので、家でゆっくり過ごすことができます。家で、妻のつくったご飯を食べるときがいちばんうれしい時間です。もっとも、これは妻には、まだいってませんけどね(笑)。名古屋、神戸、福井、島根といった路線を担当しているので、「おいしいものばかり食べてるでしょう」と思われているんです。でも、現地では健康管理を考えてすぐ寝ているんですよ(笑)。だから、妻の料理が最高なんです。それをゆっくり味わうことができる。転職して正解だったと思っています。
ひとり娘に仕事の説明をするときは「お客さまの命をあずかって、安全・安心・快適に運転して、目的地までお連れする仕事だよ」といっています。まだ4歳なのでわかっていないかもしれませんね。でも、ボディカラーがピンクで目立つバスなので、同じバスを街で見かけると「お父さんだ!」と話しているそうです。そろそろ乗せてあげようかなと思っています。
妻と、4歳の娘と過ごす時間をなによりも大切にしている。その時間を確保できる勤務体系が魅力だ
これまで私が勤務してきた、あるいは見聞きしてきたバス会社は、保守的で伝統的なところが多かった。運転士の健康管理は自己責任。ひととおりの研修はありますが、運転技術の向上については、「先輩の背中を見て学べ」という感じでした。一方、ベイラインエクスプレスは正反対。社長が革新的なことを好み、斬新なアイデアをたくさん実現してくれています。たとえば会社にフィットネスルームがある。私も休み前はいつも1時間くらい利用しています。
ほかにもfitbitという活動量を計測し、みんなと共有するツールが配布されたので、私も活用しています。メンバー間で歩数の順位が出るので負けているとくやしくて。上位の人は1日換算で3万歩以上、歩いているので、なかなか追いつけないんですよ。fitbitのおかげで健康管理に対する意識はかなり高くなりましたね。実際、社員はみんな元気だな、と思いますよ。
運転士の育成についても革新的な経営をしていると思います。体系立てて、理論的に教えている。私自身は先輩について学び、スパルタ方式で育てられた人間。でも、理論的に順序立てて学んだほうが、早くおぼえることができ、育つスピードが早いですよね。今後は、私自身のスキルを体系立てて若手に伝えることで、後進の育成にもひと役かいたい。それが、いまの私の目標です。
運転士の制服から着替え、本社オフィス内に設置されているフィットネスルームで、汗を流してから帰宅。これが日課だ
石川 貴之(いしかわ たかゆき)プロフィール
1976年、神奈川県生まれ。地元のバス会社に就職後、路線バスの運行に従事する。その後、貸切バスの運転士となる。退社後、トレーラーの運転に従事した後、再びバスの運転士となることを決意。2016年にベイラインエクスプレス株式会社へ入社。誠実な人柄と基本を大切にした確かな運転が、社内で高く評価されている。
事業所概要
|社名
ベイラインエクスプレス株式会社
|住所
神奈川県川崎市川崎区塩浜2-10-1
|URL
https://www.bayline.jp/
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