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【組織改革ストーリー】社員の希望を託された2代目社長が物流業界版“働き方改革”の旗手になる

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人手不足が深刻化している物流業界に、ひとすじの光明がさしこんでいる。東京・神奈川・埼玉・静岡に拠点を置く食品輸送会社、サントスが業界の先陣を切って“働き方改革”に取り組んでいるからだ。代表の山本は2代目社長。経営を承継した時点では巨額の債務や労使の紛争を抱え、荒波のなかでの船出だったという。しかし、その逆境を乗り越えるためにスタートさせた組織改革が効果を発揮。いまや、業界を変革する旗手として脚光をあびるまでに。そんな山本の軌跡を追った。

※2019年4月25日開催、「組織承継シンポジウム2019」(主催:一般社団法人スマートワーク推進機構)のうち、「組織承継を成功させた経営者によるパネルディスカッション」における山本社長の発言を抜粋、再構成しました。

社員から「あなたがアタマになってくれ」と

「たぶん、息子は継がないんじゃないか」。銀行の担当者は、そういっていたそうです。私の父が創業した食品運送会社・サントスが経営危機におちいったときのこと。最大の得意先が倒産してしまい、3,700万円が回収不能になってしまったことがきっかけでした。銀行にリスケをお願いしたところ、その可否の判断材料とするために、銀行と経営コンサルタントが入って、会社の財務状況を精査。すると、2億5,000万円もの簿外債務が発覚したんです。その責任をとるカタチで、父は身を引くことに。

あまりにもひどい経営状況。社長の座を継ぐべき息子の私は、そんな火中の栗を拾うようなことをしないのでは。銀行の担当者はそう思っていたわけです。私が継がなければ、サントスは倒産し清算することになっていたかもしれません。

それでも、私は2代目社長を引き受けた。それは、社員たちから「ぜひ、あなたがアタマになってください」といわれたことが大きかった。じつは当時、サントスには労使紛争が起きていたんです。残業代の支払いなどをめぐって、社員たちの不満がつのり、労働組合が結成され、改善の要求をつきつけてきていた。その矢面に立ち、経営側を代表していたのが私だったのです。

労組と対峙するとなると、経営側はどうしても「かまえて」しまう。でも、労組といえども、結局はヒトなんです。「自分にきちんと向き合ってくれていない」ことに不満をおぼえるのは、ヒトであればあたりまえ。だから、私は労組側ときちんと向きあい、彼らの意見を聞き、「一緒に改善していこう」という姿勢で接していました。そのなかで、「社長になってくれ」という要望が出てきたわけです。当時、サントスに在籍していた250名ほどの社員のために、「やるしかない」。そう決めて、2代目社長に就任したのです。

現場の意見が経営に届く風通しのよい組織へ

そこから、組織変革への挑戦が始まりました。その点、私が“物流業界の常識”に染まっておらず、ほかの業界ではあたりまえにやっていることを、どんどん導入できたことが功を奏したかもしれません。たいてい、2代目社長というと、子どものときから父親である先代社長の“背中を見て”育ち、経営者としての資質を身につけていく。そのなかで、業界の常識に染まっていってしまうことが多い。

でも、私の場合は違いました。サントスは私が子どものころからあった会社ではないんです。私は普通に証券会社に就職して、その後、独立するチャンスをもらって。ビジネスパーソンとして脂がのってきた34歳のとき、父親がサントスを創業したんです。そしてその2年後、父の会社に入社しました。そこから11年後、私が47歳のときに経営危機に直面、社長の座を継いだわけです。

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手をつけたことの一例をあげると、各現場の責任者たちの評価制度をつくりました。組織をよくするために、「こうすればいい」「ここを変えてほしい」と、社員たちは声をあげていたんです。ところが、現場の責任者たちが、いいかたは悪いですが、にぎりつぶしてしまっていた。そのため、社員の声が経営陣に届かない。「この会社は私たちの不満を聞いてくれない」──。そんな不満の集積から、労組結成という事態を招いてしまったわけです。

組織を変えるには、社員たちの声を現場の責任者たちがしっかり受け止め、経営陣に報告してくれるようにしなければいけない。そうすれば、組織のどこに問題があるかを経営陣が把握でき、解決のためのアイデアを現場からひろうことができ、打ち手に対する社員の反応もウォッチできる。いいことづくめです。では、なぜ現場の責任者が報告を上げてくれないのか。それは、「『部下たちが不満をもっている』ことが経営陣にわかれば、管理職としての自分の評価が下がる」と思っているからです。

そこで、部下の声を正確に経営陣に報告したほうが、評価が上がり、給与がアップする仕組みに変えました。さらに、誰がどのくらい昇給したのかをオープンにして、競争心をあおるとともに、「なるほど、こうすればこのぐらい昇給するんだな」と明確になるようにしました。結果、現場の責任者たちが率先して組織を改善していくための策を考え、実行してくれるようになりました。

「もう必要ない」と労組が自主的に解散

ほかにも、さまざまな組織変革を実行したことで、サントスの業績は急カーブを描いて伸びていきました。巨額にのぼった債務は、おかげさまで2017年、すべて返済。健全な財務体質を取り戻すことができました。

また、4年前のこと。組織変革が進んだことを象徴するできごとがありました。労組が自主的に解散を決めたのです。「いまは社員の要望が必ず経営陣に届くようになった。だから、もう、この会社には労組は必要ない」というのです。労組という形式をとることで、経営側が要望に対してかまえてしまっては、かえって要望実現のさまたげになってしまう。そこで解散したわけです。感慨深いできごとでしたね。

とはいえ、まだまだサントスの組織変革は発展途上。これからも改善を重ね、よりよいものにしていきます。そこには「物流業界における働き方改革の成功事例になる」という想いもあります。透明かつ納得感のある人事評価制度の導入など、他業界では進んでいる改革について、物流業界は立ち遅れてしまっています。そのなかで、サントスが成功事例をつくることで、組織のあり方について、サントスのそれを業界のスタンダードにしていく。

それにより、物流業界が働く人々にとって魅力的になれば、業界全体の深刻な課題である人手不足の解消に、貢献することができます。いま、物流業界の人手不足は、社会全体の発展にとっての足かせになりつつある。モノを必要としている人に、最終的にそれを届ける“ラストワンマイル”を担うのが物流業界。それが機能しなければ、たとえばEコマースは広がらないし、災害時に被災者に支援物資が届かない。サントスが先陣を切って物流業界の働き方改革を推進することで、社会全体の発展に寄与したい。それが、私の願いです。

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