社是に「事業家創発」を掲げ、事業家や経営人材を生み出すことを重要な経営目標として企業成長を続けているイシン。事業家や経営人材を生み出すための環境づくりとして、同社は人材育成の方針に、「守破離」の考えを盛り込んでいる。イシンで育った「事業家」のひとりで、グループの投資事業や新規事業開発などを手がける松浦氏に、仕事における守破離の捉え方について、自身の守破離体験を含めて聞いた。
今日は私自身の原体験を通して感じた「守破離」の考え方についてお話しさせていただきますね。あくまで私の考え方なので、イシンの人たちのなかでも、違う考え方をしている方もいると思います。その前提で、お話させてください。
そもそも守破離とは、日本の武道や芸道における修行のプロセスを示す言葉です。「守」は、基本となる型を師匠から教わり、それを守る段階。「破」では、教わった型を破り、自分なりの強みを活かしてアレンジをくわえていく。そして「離」では、その芸道の本質を理解したうえで、自分なりの型を新たに創造していきます。
これをビジネス、つまり「商売道」の話に置き換えると、守破離とは、上司や先輩との師弟関係において、社員が「商売人」として成長していくプロセスだといえるでしょう。
そして商売道における「守」とは、自分自身を、“マーケット・イン”させること。つまり、会社や社会の役に立てるようになり、会社や社会という“マーケット”に自らを参入させることです。そのためにはまず、所属する会社のビジネスモデルを理解し、基本の「型」として習得する必要があります。
たとえば、メディア事業を手がけるイシンに営業職として入社した私にとっては、「世の中のどのような会社が、イシンの取材対象になるのか」といった、イシンのビジネスの「あるべき論」をひたすら教わることが、「守」の段階でした。こうした「あるべき論」を先輩や上司に教わったうえで、企業を訪問し、あらためて先輩や上司からフィードバックを得る。この繰り返しでした。こうして、頭で得られる理解と実践を通じて体で得られる理解をひたすら積み重ねて、イシンの営業担当者としてお客様からご発注を頂けるようになりました。
成長意欲が「破」の仕事につながる
ええ。そして、ご発注を頂けるようになると、会社から提示されていた目標を達成でき、仕事に対して自信が生まれてくる。そうなると、より高い目標を乗り越えたくなってきます。同時に、自分に足りないものや、改善したいと思うものを理解するようになります。そして、その不足を補うために、新しいインプットを外から得たいと感じるようになるのです。
イシンでは、特に若手の社員に対し、多くの本を読むことが奨励されていますが、私自身、振り返ると、はじめはそれほど多くの本を読んではいませんでした。しかし、「守」の段階である程度、仕事の基本が身につき、自身を会社や社会に“マーケット・イン”できるようになると、今度は「もっと仕事の生産性やスピードを高めたい」「お客さまの事業内容や業界の状況をきちんと理解したい」と考えるように。自分から進んで本を読むようになりましたね。
こうして、自分に足りない部分や弱点を補いたいという成長意欲が、自主的な学習につながり、さらには得意分野を生んでいきます。そして次第に、守破離の「破」の段階へ入っていくのです。
私の場合は、雑誌『ベンチャー通信』のなかで、さまざまな特集や連載を企画できるようなったタイミングが、「破」の段階に入った時期だったと思います。単に記事広告のスペースを売るのではなく、自分で企画を練って提案するのが楽しくてしょうがなくなっていたんです。
『ベンチャー通信』にご出稿いただいたある成長企業の案件が、私を「破」に進めさせてくれるきっかけになりました。
当該号を発刊した2005年当時、その企業は未上場企業で、「自社の存在をベンチャー志向の学生に知ってほしい」というニーズから、イシンの『ベンチャー通信』にご出稿いただきました。そして発刊後、採用責任者の方がベンチャー通信へのご出稿に大満足し、抜き刷りパンフレットの増刷を繰り返し発注してくださったのです。
この案件は私にとって、雑誌の発刊後にお客さまから具体的なフィードバックを得られた、初めての案件となりました。そして、この体験をきっかけに、自分が販売している商品が、本当にお客さまの役に立っているのだと、身をもって実感することができたのです。それからは、「ご発注を頂くこと」から、「どのようにしたら顧客企業の魅力を伝えられるか」に、関心が移っていきました。
「守」の段階では、過去に発刊された雑誌の記事デザインをフォーマットとして数パターン準備し、お客さまに提案していましたが、「破」の段階では、お客さまの課題解決やビジョンの実現のために、どう誌面で表現すればよいのかを、自分で考えるように。イシンのビジネスの「型」を理解したうえで、記事の構成から写真カットのイメージなど、自分なりにアイデアを出し、企画を提案するような営業スタイルに変わっていきました。
点と点がつながって「道」になる
今後の成長が期待される企業を紹介する『ベストベンチャー100』や、人材採用と育成に力を入れている企業を紹介する『人財力100』など、Web上で展開しているサービスを、雑誌上の企画として提案するようになったときですね。
ビジネスにおける守破離の「離」は、会社が展開するビジネスモデルや、お客さまのニーズをしっかりと理解したうえで、従来の「型」にはない新しいものを、自ら生み出せる段階のこと。私の場合は、記事広告の提案という、従来の仕事の領域にとらわれず、記事広告以外の商品づくりにも関心が向き始めたのが、「離」の仕事に入ったきっかけとなりました。
しかしこれは、あくまでも雑誌『ベンチャー通信』に携わっていた当時の「守破離」の「離」であり、私の「商売道」における一部分に過ぎません。そもそも守破離には終わりがなく、何度も繰り返されるものでなくてはいけません。日本の伝統的な武道や芸道は、守破離の積み重ねによって、時代に合った新しいものに“アップデート”されてきたからこそ、現在も廃れることなく、その価値が人々に追求され続けているのです。
「現在の仕事が未来につながっている」という考えを持つことが大切です。守破離というのはたいてい、後に振り返ったときに気づくもの。私自身、仕事をしながら、「いま自分はまだ守の仕事をしている」だとか「破の段階に入れた」などと意識したことはありません。日々の仕事の積み重ねから、守破離が形成され、さらに守破離の連続のなかから、商売道が出来上がっていくのです。
この考え方は、スティーブ・ジョブズ氏がスタンフォード大学の卒業式で語った「点と点をつなげ」という演説に共通するところがあると思っています。ジョブズ氏は、大学を中退した後、聴講生としてカリグラフィーの授業にフラリと参加しましたが、この経験が、後の「マック」の成功につながりました。つまり、過去を振り返ったときにはじめて、それまで打ち込んできた点がひとつの線としてつながっていることに気づいたのです。守破離においても、日々の仕事が将来、ひとつの道につながっていくことを信じて、主体的に仕事に取り組むことが大切だと思っています。
守破離の実現には、上司や会社の理解や後押しも非常に大切です。仕事の「型」をある程度、身につけたら、「もっと先に進んでいいよ」と背中を押してくれる。そんな文化のもとで、社員は自分の得意分野を伸ばし、成長していけるのです。
イシンでは、会社として社員に約束したいことや、期待したいことを「人事ポリシー」としてまとめ、そのなかで、「人材育成」の方針として「守破離」を掲げています。ひとつの役割を与えるだけでなく、個人の成長フェーズに合わせて、「型を破ること」、そして「型から離れること」も奨励する。そんな文化のなかで自身を成長させたい方は、ぜひ、イシンで守破離を実現し、自らの「商売道」を極めてほしいですね。
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